2004.09.10第138回日本獣医学会学術集会・公開シンポジウムレポート
今回のレポートは、あくまで私(トレーナー)が講演を聞いた上での私見であり、ゆえに講演者とは違った解釈があるかもしれません。
また、医学的には今後違った解明がなされる場合もあります。

北大で日本獣医学会学術集会の公開シンポジウムを公聴してきました。
講演内容は、遺伝的な観点から研究された疾患や問題行動についてでした。
アメリカのU.Giger教授の講演は、とても難しい内容ではありましたが、参考になる興味深いお話でもありました。
一番興味を引いたのは犬ゲノム。
人間のDNAを解明するまでに10年程の月日を費やしたそうですが、犬のDNA解明には、ある研究機関がたった1年で98%も解明したそうです。あとの2%が解明されれば、病気の原因究明や治療また予防にも大きな進展があり、人間の治療にも役立つものとなるだろうとおっしゃっていました。
現段階において、異常染色体を正常な染色体と入れ替えたり、DNA自体を入れ替え正常な状態にしたりという実験が行われている様です。

本日本命の、問題行動を遺伝的な観点から考えるという武内教授のお話は、とても参考になりましたが、私が期待していた内容までの踏み込みはありませんでした。
面白かったのは、犬の気質(攻撃性や訓練性、温厚であるか等の犬の性格)が遺伝的に解明されれば、盲導犬は温厚な犬、探知犬はやる気のある犬など、元から適性にあった犬を訓練する事が出来る様になるというものでした。
同じ犬種で同腹の兄弟でも、性格の違いにより犬に合わせたトレーニングをする事で不合格になる犬が少なくなり犬への負担が減る上、より効率良く使役犬を作る事ができるだろうと言う事でした。
犬の適性を理解した上で犬に合ったトレーニングを行い問題行動を押さえていく(もしくは、長所として仕事を与える)という内容は私の考え方と共通するものでした。

残念だったのは、研究が遺伝的疾患による攻撃行動の解明や治療確立までには至っていないという事です。
(具体的な原因や治療の有無を聞きたかったのだけれど…)
遺伝的疾患による攻撃性の研究、行動治療に関してはまだまだ発展途上の様です。
講演後、武内教授とある獣医師とのお話で、「原因が遺伝的に解明され目に見える形で表されれば、飼い主さんへの助言もより分かりやすく治療もスムーズになるだろう。」とおっしゃっていました。
これからの研究に期待したい所です。

武内教授が診断された中では、先天的な理由で攻撃性等の問題行動を起こす犬は極めて少ないであろうと言う事でした。
私も、飼い主さんがその犬と上手く付き合う方法を知らない為に起こる、後天的な問題行動の方が遥かに多いと思います。


股形成異常やライソゾーム病のお話もありました。
股関節形成不全に関してはOFA(動物整形外科財団)の検査で家庭犬では46%、盲導犬では24%が異常との結果が出ているそうです。分かってはいたものの、はっきり数値で表されてしまうと。。。
最近では、(股関節形成不全に関しては)異常のある犬をブリードから外す事で3年程で全体の30%にまで異常のある犬を減らす事が出来たと言うデータがあるそうです。これは大きな結果ではないでしょうか。
また、U.Giger教授によるとアメリカでは、股関節形成不全のガイドブックが近い内に出来そうだ、と言うところまで研究が進んでいる様です。

講演を聞いて感じた事は
1)実際に研究、治療、予防と言う観点で見ると、ブリーダーやケンネルクラブとの連携が不可欠だと思いました。
U.Giger教授のお話にもあったのですが、ブリーディングや登録の時点で規制や制約がなければ遺伝子疾患のある犬を減らす事は不可能でしょう。
しかし、アメリカでさえケンネルクラブと獣医師会との連携は十分ではないとのお話でした。
では、日本は?アメリカとは比べものにならないくらい、ブリーディングに関しては遅れています。
研究や海外の論文等の情報は入って来てはいますが、その内容がきちんと活用されているでしょうか?
講演内容を聞いていても、一般市民や犬業界の人からは遠い世界のお話の様に感じるところもありました。
なにより、ブリーディングする人達が理解していかなければならない内容だと思います。
今後、獣医師会とケンネルクラブとの連携がとれ、規定を作る等で異常のある犬を増やさない事が一般に広まって行く事を期待します。

2)U.Giger教授のお話に「これはあくまで、いくつかの限られた疾病に関する研究成果の1つであり絶対だと思わないでください。」とありました。
DNAに関しては他の動物のDNAも次々に解明されていく事でしょう。しかし、今は臨床の段階であり、きちんとした結果や、将来的な保証はありません。
お話を聞いているととても面白い研究であるし、犬だけでなく人間においても病気の治療や予防に有効だろうと思われるのですが、同時に人間が遺伝子に手を加える事に対しての不安も感じました。

3)どの治療に関しても、早期発見が不可欠の様です。
発見が遅くなれば、治療も困難になってしまいます。
病気や問題行動の早期発見をしてあげられるのは、飼い主さんしかおらず、愛犬の変化を見逃さない様日々愛犬と付き合ってもらいたいと思います。


今回のシンポジウムはとても楽しく公聴する事が出来ました。
私自身、まだまだ勉強する事が沢山あります。
特に問題行動に関しては、トレーナーとして獣医学的な研究結果を理解し判断した上で、トレーニングをしていきたいと思っています。
今後、どのような内容が発表されるのかとても楽しみですし、時代と共に変わっていく事柄についていける様、日々精進!!!です。
トレーニングの視点だけでなく、獣医学、ブリーディング、生物学的に等、広い観点で『犬と人』との関係を考えられる様、これからも学んでいきたいと思います。